2005年04月20日

スペイン現代写真家10人展ー近代化以前の古きよき姿ー

Spain3月19日から4月24日まで恵比寿の東京都写真美術館で開催されている、標記の写真展にでかけた。作品の数は余り多くなく、30分もあればゆっくり見られる規模だったが、内容は非常に充実していた
 
まず目に入るのが、会場入り口の手前の壁にかかっているフアン・マヌエル・カストロ・プリエトのものだ。その作風はモノクロの哀愁を帯びた、逆光を多用した作風で、私自身の作風にちかく、一番好感が持てたまず目に入ってくる作品は、ラ・マンチャを思い起こさせる風車が、曇天の空にかすかに差し込む太陽の光の中に浮かび上がるという幻想的なものだ。サラ・ムーンを思い起こさせる、光を抑えた、やわらかい逆光の作品だ。隣の作品は、くもの巣の張った廃屋の台所を撮ったもの。その窓のすりガラスからは、ぼやけた風景が見える。窓の内側には、アクリル製かと思われる小さな透明な人形が、後姿で立つ。ドイツ表現主義の画家の作品のように、我々はその人形を通して外の世界を眺める。水族館の水槽を撮影した作品では、魚だけではなく、水槽の向こう側の入り口に立つ父親と少女が、水を通して光が屈折してぼやけて映っている被写界深度を浅くし、遠景をぼかした野原が背景の作品には、わざとピンボケさせた二匹の犬が頭を突き合わせる様が浮かび上がるが、遠くから見るとまるで闘牛のようだ作者の内面的な深さを感じさせてくれる内容の濃い、素晴らしい作品群だった
 
会場を入って正面に飾られたリッキー・ダビラの作品はいわゆる肖像画だ。いろいろな階層の、いろいろな出身の人々の”胸像”が並ぶ。それぞれの人生が刻まれていて、引き付けられる。
 
イサベル・ムニョスは”瞬間”をとらえているアクロバット曲芸者、フラメンコダンサー、バレリーナなどの極めつけの瞬間をとらえるのは並大抵ではないだろう。何百枚を撮影した中の数枚だけがここに飾られているのだろうアルハンブラのようなイスラム風文様の壁を背景に跳躍している男性フラメンコダンサーの作品は、まさに瞬間をとらえている女性フラメンコダンサーの手の動きと表情の美しさを捉えた作品は、石柱に映る影により、さらに魅了される
 
アルベルト・ガルシア=アリックスの作品では2作品が印象に残った。まず”雌猫”だが、まさにそのイメージどおりの切れ長の目で、大きく薄い唇を持つ若い女性のトルーソを撮った作品である。背中と髪の毛、腕が作り出すシルエットが美しいはっきり覚えていないが、”私の中にある女性的な面”とかいったタイトルの作品では、ストーンズのキース・リチャーズ風の龍の刺青をいれた中年男性が、黒い、薄手の、網目のワンピースをまとい、哀愁を帯びた目で訴えかけてくる私の違う面も見てというような風情で。人物の内面を、正面からとらえた単なる肖像画ではなく、ポーズなども含めて、映し出す作風
 
長くなってきたのであと一人を紹介する。クリスティーナ・ガルシア・ロデロの作品は田舎の祭りと儀式を映し出す。長いろうそくを持つ3人の中高年女性と少女と羊をメインにとらえた作品では、向かって左手の老女の表情が、なんとも奇妙な、まるでこの世のものではないものをみたかのような表情をしている。我々には何を彼らがみているのか分からないので、ますます興味がわいてくる少女はどんぐりのような形に口を開け、両目を右側によせているが、こんなに驚いている少女の表情を今まで見たことがあるだろうか無表情に見える羊もよく見ると顔に化粧が塗られている。近代化がすすんだ現在の日本では到底見られない写真である顔のほとんどを布で覆い隠し、十字架を背負い、裸足で歩く8人の巡礼の写真は、彼の地での信仰の強さを思い起こさせられたスペイン人は信仰心が強く、教会では常に礼拝が行われていた旅の記憶があるが、その教会での礼拝の場面が脳裏をよぎった。スタンプ集めのバスツアーが盛んなどこかの国とはえらい違いだ
 
日本ではまだ写真の芸術としての評価が欧米に比べて低いと思う。展覧会の常連である中高年にそうした意識が低いのは幸いで、まるで欧米の美術館にいるかのようにゆっくりと作品を鑑賞できて大満足だった
 
そうはいっても、写真集をクリスマスプレゼントに送る欧米とは異なり、日本では写真集というとヌード写真集かアイドル写真集が思い起こされる。この点は何とかならないものだろうか?
 
 
 

cornell5553 at 20:15│Comments(0)TrackBack(1)美術評論 

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1. 東京都写真美術館 「Ten Views - スペイン現代写真家10人展」 4/9  [ はろるど・わーど ]   2005年04月22日 23:28
東京都写真美術館(目黒区三田) 「Ten Views - スペイン現代写真家10人展」 3/19〜4/24 こんにちは。 恵比寿の写真美術館で、DADA.さんご推薦の「スペイン現代写真家10人展」を見てきました。 この展覧会は、「過去25年の民主社会において、スペインが遂げた変貌をテーマ

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